欧州とインド太平洋の安全保障は密接に関連している
<日本語仮訳>
欧州がロシアのウクライナ侵略という存亡に関わる脅威に直面し、また2023年10月7日の大虐殺後にガザで勃発した戦争を止め、それが地域全体に拡大することを防ごうとしている一方、われわれは、世界の重心がアジアとインド太平洋に移りつつあることを忘れてはいない。だからこそ私は、今年5月にシンガポールで開催されたアジア版ミュンヘン安全保障会議「シャングリラ・ダイアローグ(アジア安全保障会議)」、そして7月にラオスで開催された「ASEAN地域フォーラム」に参加した。
インド太平洋で起こることは欧州に直接影響を与える
インド太平洋地域で起こることは、貿易や対外直接投資、人的交流における強い繋がりやインド太平洋諸国が半導体など数多くの主要技術で世界的に果たしている戦略的役割のために、実際、欧州に直接影響を与える。そのため、南シナ海と台湾海峡における国連海洋法条約に基づく平和と航行の自由の問題は、同地域がわれわれの国境から遠く離れているにも関わらず、われわれにとって特別な関心事である。
さらに、ロシアのウクライナ侵略戦争への北朝鮮の関与が拡大していることから分かるように、欧州とインド太平洋における様々な危機的状況は分かちがたく結びついている。複数の国連安全保障理事会決議に明白に違反して、ここ何カ月も砲弾やミサイルを大量に供給していることに加え、北朝鮮の兵士は、今やロシア軍兵士と肩を並べてウクライナ侵略戦争に直接関与している。これは極めて深刻な事態の激化であり、それが日韓両国の首脳陣との協議の中心であったことは言うまでもない。彼らは、ロシアと北朝鮮が最近締結した防衛協力協定や北朝鮮の核開発計画の継続的な進展、北朝鮮の核状況に関するロシアの最近の声明を踏まえ、自国の安全保障と地域の不安定化の可能性を非常に懸念している。
私は最初に東京を訪れ、中谷元防衛大臣と会談した後、岩屋毅外務大臣と共に、2023年7月の日・EU定期首脳協議で合意された「第1回日・EU戦略対話」の議長を務めた。
日本はインド太平洋におけるEUの最も緊密なパートナーの一つである
日本は、主要7カ国(G7)をはじめとする素晴らしい協力関係や、世界・地域の課題や日本が多くのノウハウや先進技術を有する幅広い分野、特にグリーンとデジタルの移行に関する分野における全面的な連携など、インド太平洋におけるEUの最も緊密なパートナーの一つである。岩屋外務大臣とわれわれは、日・EU間の協力に関する包括的な枠組みを定めた「日・EU戦略的パートナーシップ協定(2019年締結、今年の春に全加盟国が最終批准)」の批准に関する通知書を取り交わした。
日本は最近、経済安全保障を含め、EUとの安全保障・防衛協力により大きな関心を示している。日本は近年、地域の安全保障の担い手として、また米国やその他の同志国にとっての主要なグローバルパートナーとして、ますます自らを位置づけ直している。
「第1回戦略対話」の機会に発表した「日・EU安全保障・防衛パートナーシップ」は、同種のパートナーシップとしてはノルウェー、モルドバに続く3番目、欧州外では初となる。この新たなパートナーシップは、海洋安全保障やEUミッション・作戦への参加、宇宙安全保障、サイバー問題、外国による情報操作・干渉(FIMI)、テロ対策、核不拡散、防衛産業など、「非伝統的」な安全保障分野における日・EU間の協力の枠組みとなる。11月11日には、この新しい枠組みの下で初めての日・EUサイバー対話を東京で開催した。
日本政府は、欧州とインド太平洋地域の安全保障が密接に関連していることを十分に認識している。石破首相は最近、「今日のウクライナは明日のアジアかもしれない」と強調した。日本は、最近の中国とロシアによる領空侵犯や日本列島周辺での軍事活動、そして北朝鮮のロシアへの軍事支援と核・ミサイルの脅威に対して警戒感を抱いている。
2025年前半に予定されている日・EU定期首脳協議は、安全保障分野だけでなく、他の多くの分野においても、われわれの連携を強化する新たな機会となるのは間違いない。
韓国では最初に、停戦を監視するスウェーデン代表団の団長レナ・ペルソン・ヘルリッツ少将を伴って、板門店渓谷にある韓国と北朝鮮の間の非武装地帯を訪れた。ベルリンの壁崩壊35周年を祝っている時にこの場所を訪れたことで、当時冷戦が全ての場所で終わったわけではないことを再認識した。私はまた、潘基文(パン・ギムン)前国連事務総長や市民社会の代表と会談する機会を持った。
2010年以来の戦略的パートナーであるEUと韓国
EUと韓国は、2010年以来の戦略的パートナーである。われわれの関係は、主に政治関係に関する「枠組み協定」と「自由貿易協定」に基づいている。またEUと韓国は、2022年に「デジタル・パートナーシップ」を、2023年に「グリーン・パートナーシップ」を立ち上げた。
2022年の選出以来、韓国のユン大統領は、米韓同盟への強い支持や「グローバル中枢国家(global pivot state)」としての韓国の推進など、積極的な外交政策を支持してきた。韓国政府は、同志国との二国間関係や日米韓三国協力、G7、北大西洋条約機構(NATO)など「ミニラテラル」なネットワークを構築することで、不確実な地政学的変化から自国を守る外交上のセーフティネットを強化することに積極的である。
金龍顕(キム・ヨンヒョン)国防相とは、特に最近の北朝鮮による大陸間弾道ミサイル発射実験とその影響について協議した。趙兌烈(チョ・テヨル)外相と私は、新たな「EU・韓国安全保障・防衛パートナーシップ」を発表した後、外交関係樹立60周年記念として2023年5月にソウルで開催されたEU・韓国首脳協議で決定した通り、「第1回戦略対話」の共同議長を務めた。
われわれは、地域の安全保障情勢について幅広く議論した。6月には、ウラジーミル・プーチンは2000年以来初めて平壌を訪問し、金正恩委員長と「侵攻された場合の相互支援の提供」を盛り込んだ「包括的戦略的パートナーシップ条約」を締結した。またプーチンは、次回の会談に向けて金正恩をモスクワに招待した。
ロシアのウクライナ侵略に関して、韓国は同志国である。韓国は、全ての関連する国連総会決議に賛成票を投じ、「ウクライナ和平サミット」に参加し、その場で採択された共同声明に署名した。また2024年には、2023年の8倍以上の3億9,400万ドルの資金援助をウクライナに提供し、ウクライナの戦後復興に貢献する用意があることも明言している。
10月23日、韓国の国家情報院は、3,000人の北朝鮮兵士がウクライナと戦うためにロシアに移動し、さらに12月までに1万人以上が派遣されると発表した。これを受けて韓国大統領府は、ウクライナへの武器供与の可能性を示唆した。韓国の防衛産業は非常に強力かつ効率的であり、会談中、私はこの可能性を強く支持した。そして、対ロシア制裁回避の問題やその回避方法について韓国側と協議した。
われわれはまた、北朝鮮とロシアの協力を非難する共同声明を採択した。そして、韓国側に対して、北朝鮮の核・ミサイルの脅威とその好戦的な態度に直面する韓国へのEUの全面的な連帯を確認した。われわれは、北朝鮮が挑発行為を止め、対話を再開せざるを得なくなるよう、北朝鮮の行動に対する代償を増大させるための共同の努力を続けなければならない。
韓国と日本は、一方では米国と、他方では中国と、定期的に3国間で対話を行っている。EUもまた、そのような形で地域の安定の促進に貢献することができるだろう。
就任当初からインド太平洋地域との関係強化に努めてきた私は、退任前に日本および韓国と2つの「安全保障・防衛パートナーシップ」を締結できたことに非常に満足している。EUは軍事同盟として誕生したわけではないのは確かだが、現在の地政学的状況下では、海洋安全保障やサイバー脅威などの分野において、世界の安全保障の提供者やパートナーになることができるし、またそうならなければならない。
原文はこちらをご覧ください(英語)。
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