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新型コロナウイルス感染症のパンデミックと出現する新しい世界

23.03.2020

EU News 66/2020

 

<日本語仮訳>

ジョセップ・ボレル欧州連合(EU)外務・安全保障政策上級代表兼欧州委員会副委員長によるメッセージ

「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、世界を作り変える。危機がいつ終息するのかはまだ分からない。しかし、その頃には、世界はまったく違った様相を呈することは確かである。どの程度異なるのかは、現在のわれわれの選択次第である。

新型コロナウィルス感染症の危機は戦争ではないが、前例のない規模での資源の動員と投入を要するという意味では、まるで「戦争のよう」である。国家間の連帯と公益のために犠牲をいとわない姿勢が、決定的に重要である。国境を越えた団結と協力によってのみ、われわれはウイルスに打ち勝ち、その影響を抑制することができる。そして、欧州連合(EU)には、果たすべき中心的な役割がある。3月23日にビデオ会議で今回の危機について議論した際に、この点は、EU加盟各国の外務大臣の明確な共通の見解であった。

戦争に勝利をもたらすのは、戦術や戦略でさえなく、兵站(ロジスティックス)と通信(コミュニケーション)であると、時に言われる。新型コロナウィルス感染症にも、これは当てはまるように思われる。つまり、対策の組織化、世界中で得られる教訓の迅速な活用、市民やより広い世界に向けての効果的な情報発信において最も巧みである者が、最も強い者となるだろう。

世界規模で言葉をめぐる戦いが生じており、その戦いでは、タイミングが極めて重要な要素である。1月の時点で話題の中心であったのは、中国共産党の幹部が重要な情報を隠ぺいしたことにより事態が悪化した中国湖北省での局所的な危機であった。欧州は、当時事態に圧倒されていた中国当局を支援するため大量の医療物資を送った。それ以降、中国は、新規感染者の数を1桁にまで減少させ、他国と同様に、今では欧州に向けて物資や医者を提供するようになっている。そして中国は、自分たちは米国と異なり、信用と信頼のできるパートナーであるというメッセージを積極的に発信している。言葉をめぐる戦いでは、EUそのものの信頼を傷つけようとする試みや、全員がウイルスの保持者であるかのように欧州人にレッテルを貼ろうとする事例も見受けられる。

欧州にとって重要な点は、感染の拡大や対策が進むにつれ、人々の認識もまた変わるのは間違いないということである。しかし、偏った言葉や「寛容の政治」による影響力の争いなど、地政学的な要素があることに注意を払う必要がある。われわれは事実で武装し、誹謗中傷する者から欧州を守らなければならない。

欧州域内にも言葉をめぐる戦いはある。EUは連合であり、連帯は空疎な言葉ではないと示すことが重要である。各国当局が主役となった最初の段階を経て、今では、加盟国から実行する権限を与えられたEUが先頭に立ち、共通対策を全面的に展開している。重要な医療物資の共同調達、景気刺激策の共同実施や必要な財政や国家補助の規制緩和などを実施している。

さらに、EUが果たす役割は、対外的にも大きなものがある。われわれは、領事関連で加盟国を支援し、外国に取り残された欧州市民の帰還を援助している。例えば、先週モロッコでの共同作業により、約3万人の欧州市民の帰還を実現した。このことは、力を合わせることで成果につながることを示している。

しかし、やるべきことは山積している。現地の大使館や領事館に登録されている欧州市民の渡航者は、世界で約10万人に上るが、実際に帰還が必要な人の数は、これよりもっと多いと推定される。

世界規模のパンデミックには、世界規模の解決策が必要であり、EUはその闘いの中心とならなくてはならない。そのため、アジア、ラテンアメリカ、アフリカなど世界中のパートナー国と連絡を取り、国際的な協調策の立案を図っている。危機時には内向きになり、国境を閉ざして自力で対処しようとするのがしばしば人間の本能である。こうした姿勢は、理解できなくもないが、自滅的な行為である。新型コロナウィルス感染症による緊急事態は、一国や単独で解決することはできない。そうすることは、われわれ全員の苦しみを長引かせ、人的・経済的損失を増大させるだけである。

それよりも取り組むべきなのは、科学者、経済専門家、政策立案者の国際的な協調を大胆に拡充することである。国連や世界保健機関(WHO)、国際通貨基金(IMF)、そして世界主要7カ国(G7)、世界主要20カ国・地域(G20)など国際会議の場において、治療とワクチンの開発に向けた取り組みへの資源の結集、財政・金融政策の協調と自由貿易の維持による経済的損失の抑制、科学者の助言に基づいた国境の再開放に関する連携、オンライン上の虚偽情報への対策などに取り組むべきである。今は、感染者の治療に全く役立たない悪者探しではなく、連帯と協力の時である。

域内に大きなニーズがある一方、EUは、事態に圧倒される恐れのある脆弱な状況に置かれた他国を支援する用意をすべきである。仮にシリアの難民キャンプで新型コロナウィルス感染症が発生すれば、既に大いに苦しんでいる人々がどうなるかを考えてみればわかる。その点に関して、アフリカは大きな懸念である。エボラ出血熱の際に、アフリカは、パンデミックの対応に関する最新の知見を欧州以上に蓄積したのかもしれないが、保健医療制度全体が非常に脆弱であり、全面的に感染症が拡大した場合に大惨事につながる恐れがある。人と人との間の距離の確保や封鎖された環境での生活は、人口の密集したアフリカの都市部において明らかに一層困難である。アフリカでは、何百万もの人が非公式経済で生計を立てており、社会的なセーフティネットがない状態で感染症の発生に対応せざるを得なくなる。ウイルスがアフリカ大陸を襲う前ですら、アフリカは、他の新興国と共に、大規模な資本の引き上げに対応せざるを得ない状況にある。

ベネズエラやイランなどの他の地域の国々も、われわれの支援がなければ同様に崩壊する恐れがある。つまり、こうした国々がIMFの資金援助を受けられるようにする必要がある。またイランについては、米国の制裁にかかわらず、正当な人道上必要な物資の貿易が実施できる体制の確保が必要である。

また、コロナウイルスの危機前に取り組んでいたその他の問題は何一つ消え去っていないことを忘れるべきではない。実際、悪化している恐れもある。また、新型コロナウィルス感染症により、近隣諸国で長期化している一部の紛争は深刻化している恐れもある。特に米中間の緊張など、地政学的な緊張が高まる世界において欧州は方向性を示す必要があった。その点についても、新型コロナウィルス感染症により、こうした以前からある傾向が一層強まる恐れがある。

総じてEUに課された仕事は、批判に毅然と対処し、危機の際には有効で頼れる存在であると極めて具体的な形で示すことである。ジャン・モネは、自身の回想録の中で「欧州は危機の中で鍛えられ、またそうした危機のために取られる解決策の総和である」と記している。今回の危機と闘い、今後に備えるに当たって、この言葉をわれわれの指針としよう」

 

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