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イスラエル・パレスチナ紛争においてEUが支持していること

ジョセップ・ボレル欧州連合外務安全保障政策上級代表兼欧州委員会副委員長107日のイスラエルに対する恐ろしいテロ攻撃を契機に生じた紛争は2週目に入り、人質の解放や民間人の保護、紛争の地域への拡大防止および公正かつ永続的な和平に向け、欧州連合(EU)が何を支持し、どう取り組み、また今後何ができるのかについて今一度確認すべき時である。

<日本語仮訳>

2週間前の107日の土曜日、私はEU外務理事会の非公式会合が開催されたウクライナへの出張を終え、静かに一日を過ごすことを願っていた。しかし、早朝、ハマスによるイスラエルへのテロ攻撃とガザ地区周辺での多数のイスラエル市民の殺害に関するニュースが飛び込んできた。私は、ロシアがウクライナに侵攻を開始した2022224日の朝と同じ感情を覚えた。われわれはまたしても、大きな人的被害を生み出し、今後何年にもわたって世界におけるEUの役割を定めることになる、歴史上の決定的な瞬間を迎えようとしている。

目下の危機への2週間の集中的な取り組み

それ以来、私は、イスラエルに対するハマスの恐ろしいテロ攻撃により生じたこの紛争に大半の時間とエネルギーを費やしてきた。10月8日にはEU27加盟国の声明を発表し、10日にオマーンで開かれた会合では、湾岸協力会議(GCC)との共同見解を発表したのに引き続き、同日に開催されたEU外務理事会の臨時非公式会合で共通の立場をさらに定義した。17日には、欧州理事会の臨時会合でこの問題を集中的に議論し、翌18日には欧州議会本会議で討議した。

今回の紛争は、シャルル・ミシェル欧州理事会議長とウルズラ・フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長とともに私も出席した、20日にワシントンで開催されたEU・米国首脳協議や、ミシェル議長に私も同行した翌日のカイロ平和サミットでも、議論の中心となった。そして、本日ルクセンブルクで開催されるEU外務理事会では、EUが何を支持し、何に取り組んでいるのか、今後何ができるのかを改めて確認する予定だ。上記の各会合で既に述べたように、われわれは、4つの原則、すなわち、「断固とした姿勢」、「人道」、「一貫性」および「積極的な政治的コミットメント」に基づいて行動しなければならない。それぞれについて説明しよう。

「断固とした姿勢」とは、何よりもまず107日のハマスによるテロ攻撃を明確に非難することだ。大半が民間人である1,400人以上が死亡し、200人以上が人質に取られた。イスラエルの死者1,400人は、EUでは死者67,000人に相当する。ハマスは、一種のジハード主義によるユダヤ人虐殺として、できるだけ多くのユダヤ人を殺すことを望み、イスラエル建国以来最大の死者数となった。ハマスがテロ組織であることを確認する必要があったとすれば、最近の行動を見れば十分だ。

ジョー・バイデン米国大統領が同国民に向けた演説で述べたように、ユダヤ人は、人が他者に与えようとする痛みには限りがないことを、恐らく誰よりもよく知っている。数日前、ウクライナを訪問した際、私はバビ・ヤールにいた。1941年にナチスが33,771人ものユダヤ人を射殺した場所だ。私は死者に追悼の意を捧げた。追悼の灯を絶やさないようにする責任者のラビ(ユダヤ教指導者)に言ったように、異なる民族や宗教に属しているという理由だけで人を殺すことほど憎むべきものはない。悲しい経験を経た欧州では、この原則はEUの存在理由の一つとなっている。

国際法を遵守する必要性

第二の原則は「人道」である。もちろんイスラエルには自衛権がある。しかし、あらゆる権利と同様に、この権利にも国際法、とりわけ国際人道法によって定められた限界がある。水や電気の供給を遮断し、民間人に家から退去するように圧力をかけることは国際法に反している。

これらの規範は、被害者や加害者のアイデンティティとは無関係に適用される。ハマスとパレスチナ人を混同してはならないし、ガザ地区の民間人がハマスの犯罪行為について集団的に責任を追及されることはありえない。われわれは、この問題に関して同盟国の米国と意見が一致している。実際、バイデン大統領も、イスラエル政府に対し、同国が戦争法を順守することが緊急に必要であることを強調している。

われわれは、直ちにハマスによる恐ろしいテロ攻撃を最も強い言葉で非難し、また全ての人質の即時かつ無条件の解放を求めた。しかし、パレスチナ人の命が失われたという悲劇にもまた胸が痛む。人々を人間として認めないことは、常に最悪の暴力の前兆であることを忘れてはならない。平和に暮らしたいと願うパレスチナ市民の人道を無視することはできない。その大半が子どもである、数千人もの命が既に失われている。われわれは、悲惨な状況下で命を落としたイスラエル人を追悼するとともに、この紛争の罪のない犠牲者であるパレスチナの子どもたちにも哀悼の意を捧げる。

ある悲劇に対して声を上げることが、別の悲劇に対して声を上げることを妨げてはならない。あることを非難する道徳的強さは、別の場所で別の人々によって行われた別のことを非難することを可能にし、またそうすることをわれわれに強いる。そうでなければ、紛争の解決に取り組む際にわれわれは役に立たないだろう。

欧州委員会は、ガザ地区への人道支援を3倍に増やすことを決定した。この支援を迅速に届けなければならない。しかし、そのためにはガザに入る必要があるが、現時点ではそれはまだ困難な課題だ。先週、われわれは、国連や米国、地域のパートナーとともに、それを可能にすることに集中的に取り組んだ。21日のカイロ平和サミットに先立ち、最初のトラック20台がガザに入ることが許可された。これは最初の一歩だが、同地区の住民の基本的ニーズを満たすには、毎日より一層の人道支援が必要である。海水淡水化プラントや発電所を動かすための燃料も支援に含めるべきだ。病院は水や電気がなければ機能しない。

パレスチナ人への支援に関するフェイクニュースを信じるな

より一般的に、パレスチナ人への支援は、ハマスの資金源になっていると言われることがある。これは全く事実ではない。われわれは、EU資金の行き先方を非常に正確に監視しているが、資金はパレスチナ人の基本的なニーズを満たすために使われている。われわれは、それを再度検証する用意があるし、欧州委員会はその検証を行うだろう。しかし、先週の欧州議会での議論でも生じたように、現地でのわれわれの困難な活動を妨げるような誤った告発やフェイクニュースの流布を許すべきではない。

政治的一貫性の必要性

EUの行動の指針となるべき第三の原則は、「政治的一貫性」である。このようなデリケートな問題で意見が割れているように見えるわけにはいかない。EUの立場は、私が1010日にオマーンで開催した外務理事会の臨時非公式会合で決定され、先週17日の欧州理事会の臨時会合で確認された。それは次の通りである。「われわれは、ハマスによるイスラエルとイスラエル国民に対するテロ攻撃を最も強い言葉で非難する。われわれは、イスラエルが人道法および国際法に従って自国を防衛する権利を有することを確認する。そして、EUは、最も脆弱な人々、最も危険にさらされている人々に人道支援を提供するために力を結集している。また、二国家解決に基づく、従ってパレスチナ自治政府への支持に基づく、永続的な平和のための和平プロセスにコミットしている」。これ以外のEUの立場はなく、以上の文章は全てこの立場の一部である。

この点を明確にすることは重要だ。というのも、ここ数週間、集中的に関係者と接触する中で、多くのアラブ指導者やその他の対話者が、EUのウクライナに対する強い姿勢とわれわれのイスラエルおよびパレスチナに関する立場を比べて、EUはダブルスタンダードだとの認識を共有していたからだ。このような批判は、107日以前、ロシアのウクライナ侵攻に関する議論の中でも既にあった。しかし、それ以来、こうした批判は一層強くなっている。両紛争は、性質がまったく異なるが、地政学的な帰結という点では確かに関連している。

われわれが価値や規範に忠実である上で、この種の批判が生じる余地を与えてはならない。そして、言動によってそれに対抗する必要がある。そうでなければ、ロシアは、ウクライナに対し、こうした批判を利用するだろう。特に、今後数日以内に国連安全保障理事会や国連総会に提出される決議案の採決について、共通の立場を確立する必要がある。

根本的な紛争解決に向けた積極的なコミットメント

第四の原則は、この紛争を解決するための「積極的なコミットメント」である。

われわれはまず、レバノンや他の近隣諸国など地域への波及を防ぐことに努めなければならない。波及すれば中東地域全体は不安定化し、欧州にも影響が及ぶことになる。この数日間、私は地域のあらゆる関係者と何度も接触し、国連や米国ともこの問題について連携してきた。また、ガザの現状についても早急な解決策を模索する必要がある。

しかし、同時に根本的な紛争の解決を図る必要がある。これまで、われわれはあまり効果的ではなかったと認めざるえない。私は2008年に空爆を受けた後のガザを訪れたが、私が対応を迫られたガザでの大きな戦争は今回で4度目だ。そして、この暴力の連鎖を止めなければ、将来また同じことが起こるだろう。イスラエル人とパレスチナ人の信頼関係は、近年既に極端に低下し、いまや「死海」と同水準にある。他者に対する恐怖と憎悪が、集団や個人を支配している。

イスラエルとパレスチナの100年に及ぶ悲劇は、新たな局面を迎えている。それは世界平和にとって非常に危険でありうるし、国際社会はそれを回避するために力を結集すべきだ。あまりにも長い間、われわれはパレスチナ問題がもはや存在しない、あるいは自然に解決するかのように、この問題を切り捨ててきた。

EUもその一員である国際社会は、30年前のオスロ合意を履行するためになすべきことをなさなかった。オスロ合意以降、占領地でイスラエル人入植者の数は3倍に増加した一方、実現可能とされたパレスチナ国家の領域は、迷路のような相互につながっていない地区群領域へと後退してきた。われわれは、毎日のように二国家解決を求める呼びかけを続けているが、国連総会でパレスチナ代表が私に言ったように、『それを呼びかける以外に、その実現に向けて何をしているのか?』

和平はひとりでに訪れるものではない。それは作りあげるものだ。最も困難な決断が下されるのは、常に危機に瀕している時である。そして今、われわれはそこにいる。解決策がいかに遠く、困難なものに見えようとも、二国家解決がわれわれが知る唯一の実行可能な解決策であることに変わりはない。そして、解決策が一つしかないのであれば、その実現のために政治的エネルギーの全てを注がなければならない。

スヴェン・クープマンスEU中東和平担当特別代表とともに、われわれは既に昨年、サウジアラビアやエジプト、ヨルダン、アラブ連盟と連携して、中東和平および二国家解決の再生に向けて取り組んできた。最近の情勢を受け、もちろん、このアプローチを根底から見直す必要がある。EUは、同地域内外のパートナーとともに、取り組みを強化していく。

この危機にどのように対処するかによって、今後何年にもわたるEUの信頼性と世界における役割が決まるだろう。

 

原文はこちらをご覧ください(英語)。

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